【帯広刑務所編】道産子兄ィの右ストレートが決まった! 懲罰覚悟で男の意気地!! チロリン村頂上決戦③《懲役合計21年2カ月》
凶悪で愉快な塀の中の住人たちVol.11
◼︎愛しき人たちがシャバでじっと耐えて待っている
ボクは一度、この兄ィから大切な彼女の写真を見せてもらったことがある。
ほんの短い間、同じ部屋になり、寝るときも隣同士だったのだ。その写真に写っていた彼女は、ボクの予想を爽やかに裏切って、ヤクザの姉御といわれるような、ある種の雰囲気を持つ派手さとは無縁な、清楚でコンサバティブな可愛い人だった。
人は思うかもしれない。いいヤクザ者が女のことで我慢をするのは格好悪いと……。
ボクはそうは思わない。愛しき人たち、つまり、妻や子ども、愛人、そしてヤクザをやっていれば、それ以上に大切な親分や兄貴分、兄弟分たちのために、一日でも早く社会に出て孝行しようと、じっと我慢をするのも同じ我慢であり、人のための我慢でもある。
しかし、人はそんな美しく格好いい思いには理解を示さず、逆に、そのような心を、意気地がないからと決めつけ、蔑みの目で見るのだ。
ボクの頭に当たったソケットのことで、ボクから生意気な口調でねじ込まれた木佐兄ィは、そのときもぐっと我慢していたに違いない。健気に面会に来てくれる彼女のことを思って……。
そんな兄ィを、ボクは決して見下さなかった。愛しき人たちがシャバでじっと耐えて待っているその辛苦を思えば、自分のつまらないプライドなど、どうにでもなるだろう。できない我慢をするのが本当の我慢であり、真の勇気だとボクは思う。
「金を失うのは小さく、名誉を失うことは大きく失うことである。だが、勇気を失うことはすべてを失うことである」
どこかの国の首相が言っていた言葉を、ボクは思い出していた。
(『ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜つづく)
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2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
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絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!
「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。